研究について
高速原子間力顕微鏡(HS-AFM)の装置・解析技術の開発を中核に、タンパク質が働く仕組みの解明、合成超分子・高分子フィルムの構造と力学、サイボーグ分子の創成まで、計測技術とその応用を一気通貫で展開しています。
- Theme · 01
高速AFMと解析ソフトウェアの開発
より速く・より精細に観るための高速AFMの性能向上と、得られた動画データを解析する自製ソフトウェアの開発を、両輪で進めています。
高速AFM解析ソフトウェア装置開発タンパク質の大きさは通常10〜50 nmで、光学顕微鏡では構造や動態を直接観察できません。AFMは「触覚」の原理を応用し、溶液環境下で生きたタンパク質をナノスケールで観察できますが、従来は画像化が遅く動的挙動の観察が困難でした。当研究室では光てこ系・カンチレバー・走査機構・制御エレクトロニクスを最適化し、時間分解能・空間分解能・走査範囲・低侵襲性といった高速AFMの性能向上を継続的に進めています(Tip-Scan型・広域型・低侵襲型などの拡張も推進)。さらに、高速AFMが生み出す大量の動画データを定量的に解析するための自製ソフトウェアを開発・公開し、前処理(平面フィット・ノイズ除去・ドリフト補正)、分子の位置・配向の自動追跡、統計解析と可視化を支援することで、計測と解析を一体として発展させています。
ソフトウェアのダウンロードはこちら
高速AFMの装置構成・計測原理 自製解析ソフトウェアによるAFM動画解析のデモ AFM画像シミュレータのデモ - Theme · 02
高速AFMの機能拡張と複合計測
蛍光顕微鏡・電気化学計測・力学操作と複合化し、化学的・電気的・力学的な情報を同時に取得できる多角的な解析ツールへと進化させています。
複合計測力学マッピング(HS-iFM)蛍光・電気化学蛍光顕微鏡との複合化により、化学反応をリアルタイムに計測しながら、それに伴う構造変化を同時に観察できます。電気化学計測装置との融合では、試料表面の電荷分布や電気的特性をマッピングします。さらに、分子を引っ張る・押すといった力学操作を行いながら応答をリアルタイムに観察する分子操作機能や、タンパク質・細胞の柔軟性や剛性とその時間変化を計測する手法(高速インラインフォースマッピング, HS-iFM)も確立しました。
電気化学高速AFMの一例。MUA-SAM/金電極へシトクロムc が吸着する様子(左・高速AFM)と、同時計測した酸化還元電流(右・サイクリックボルタモグラム)を同期再生。Kouta Takeda, Takayuki Uchihashi, Hiroki Watanabe, Takuya Ishida, Kiyohiko Igarashi, Nobuhumi Nakamura*, Hiroyuki Ohno, PLoS ONE 10, e0116685 (2015). 高速AFMと蛍光顕微鏡の複合機による同一視野観察。蛍光標識した一分子タンパク質を、高速AFMの形状像・蛍光像・光学視野(カンチレバー)で同時にとらえる。 高速インラインフォースマッピング(HS-iFM)。形状と力学物性(弾性率)を同時に計測し、生きた大腸菌のナノ力学を可視化する。 - Theme · 03
一分子動態観察によるタンパク質機能の解明
溶液中で働くタンパク質一分子の動きを直接観察し、構造変化と機能がどのようにカップルしてタンパク質が「働く」のかを物理的に解明します。
タンパク質の機能一分子動態構造変化生命活動を支える「分子機械」であるタンパク質は、環境や他の分子との相互作用に応じて立体構造を柔軟に変化させ、機能を発揮します。当研究室では、機能と構造変化のカップリングを一分子レベルで直接観察し、タンパク質が働く仕組みを物理的に理解することを目指す基礎研究を進めています。F1-ATPaseや膜タンパク質、酵素など多様なタンパク質が溶液中でリアルタイムに動く様子をとらえ、従来の手法では見えなかった動的な挙動や機能発現のメカニズムを定量的に明らかにし、生命システムの基盤となる分子機構の解明に取り組みます。
回転子をもたない F1-ATPase が示す回転触媒を高速AFMで直接可視化(Uchihashi, Iino et al., Science 333, 755, 2011)。 セルロース表面を動くセルラーゼ。分子の「渋滞」が加水分解効率を下げる様子を高速AFMで観察(Igarashi, Uchihashi et al., Science 333, 1279, 2011)。 一分子で観る、タンパク質が働く瞬間。KaiC(概日時計)、ClpB、SecYEG、FtsZ-ZapA(分裂リング)、Aβ、P-糖タンパク質など、多様なタンパク質の動態ギャラリー。 メディア出演:高速AFMがとらえた F1-ATPase の動きが、地域情報番組「レオスタ」(MRO北陸放送)で紹介されました。 - Theme · 04
合成超分子・高分子のダイナミクス
人工的に設計された合成超分子や高分子の自己組織化・応答ダイナミクスを解析し、材料科学やナノテクノロジー分野へ展開します。
合成超分子自己組織化材料科学タンパク質だけでなく、人工的に設計された合成超分子や高分子の動態解析にも取り組んでいます。化学者・材料科学者との共同研究を通じて、設計された分子集合体や高分子の構造形成・応答ダイナミクスを定量的に解析し、生命科学にとどまらず材料科学やナノテクノロジー分野への応用を広げています。
超分子ゲルが“できる瞬間”。低分子ゲル化剤が自己集合して繊維をつくり、三次元網目(ゲル)へ。3段階の成長と、伸長・停止を繰り返す断続的成長を高速AFMで観察(Kimura, Ishii, Yagai, Uchihashi, Yamanaka et al., Nat. Commun. 16, 3758, 2025)。 光の強さに応じて次元の異なる非平衡ナノ構造をつくる超分子集合体。2Dナノシートの形成と、ファセットが明瞭な単一シートの成長を高速AFMで観察(Tamaki, Uchihashi, Kawano, Ganser, Yagai et al., Chem, 2025/2026)。 多彩な合成超分子のダイナミクス・ダイジェスト。ナノファイバー、環状・鎖状の超分子ポリマー、二次元集合体など、設計された分子集合体の自己組織化を高速AFMで観察。 - Theme · 05
高分子フィルムの構造と力学特性
高分子微粒子(合成ラテックス)が形づくるフィルムの構造と力学特性を、ナノスケールの力学イメージングで解き明かし、循環型・環境配慮型材料の設計に貢献します。
高分子フィルムナノ力学イメージング循環型材料水系の高分子微粒子(合成ラテックス)が乾燥してできるフィルムは、粒子どうしの界面の状態によって力学強度が大きく左右されます。当研究室は高速AFMによるナノ力学イメージング(力学マッピング)を用いて、単一微粒子からフィルムに至る階層的な構造と、その力学物性との関係をナノスケールで明らかにしています。岡山大学・鈴木大介先生らとの共同研究(JST-CREST「分解・劣化・安定化の精密材料科学」)として、力学的に安定でありながら必要なときに分解・再分散できる『循環型微粒子材料』の学理構築と、持続可能な材料設計に貢献しています。
高分子フィルムを引っ張りながら、ナノ構造の変形をその場観察。一軸ストレッチ装置付き高速AFMで、微粒子(ラテックス)フィルムの非アフィン変形と力学物性を可視化(Chan et al., Rev. Sci. Instrum. 93, 113703, 2022/Nishizawa, …, Suzuki, Uchihashi et al., ACS Appl. Mater. Interfaces 16, 63073, 2024)。 - Theme · 06
サイボーグ分子の創成
人工分子とタンパク質を融合した「サイボーグ分子」を創成し、分子の機能向上や、自然には存在しない新規機能の創発を目指します。
サイボーグ分子人工分子設計機能創発タンパク質に結合させる機能性人工分子の設計・合成に取り組み、人工分子とタンパク質を融合した「サイボーグ分子」を創成しています。自然には存在しない分子システムを設計・構築することで、生命現象や分子機能の理解を深めるとともに、医療や材料開発につながる新たな技術基盤を築いています。物理・生物・化学の境界領域における学際的なアプローチを象徴する研究です。
新テーマ・始動2025年に始動した新しい研究テーマです。最初の成果に向けて、鋭意研究を進めています。
